上田法講習会 ドイツへの道のり


上田法治療研究会のFacebook Pageに投稿し、その後CAMRのFacebook Pageでシェアしたものです。
イラストは相変わらずです。下書きをして、それを「なぞる」というのはこの頃も気がつかなくてて、ただひたすらぶっつけ本番で描いておりました(^^;)

 

2017年8月13日
上田法講習会 ドイツへの道のり(その1)
 上田法講習会がドイツで初めて開催されたのは2011年の3月です。東北大震災の2週間後でした。日本から国際インストラクターの勝浪・塩之谷・山本とシステム論の講師として西尾が参加しました。
 ドイツでは理学療法士の9割がマニュアル・セラピーの講習会を受講・終了しています。作業療法士の多くもマニュアル・セラピーを受講しています。実際マニュアルセラピー・PNF・ボバース・ボイタ・浮腫療法などの政府公認のコースを受講・終了したセラピストの実施するセラピーには加算が加わります。それは施設の増収となり、そしてセラピスト個人の給与にも反映されます。
 そのためドイツでは多くのセラピストがそれらのコースを受講します。更に複数のコースを受講するものも多いのです。まさしくドイツは「治療技術大国」なのです。(その2に続く 文責:西尾幸敏)


2017年8月19日
上田法講習会 ドイツへの道のり(その2)
 徒手の治療技術習得に熱心なお国柄なので、理学療法士・作業療法士のための専用の研修場が国中の都市部にあります。セラピストや治療手技の団体などが経営しており、毎週のように様々な治療技術・知識の講習・研修コースが予定されています。理学療法士・作業療法士はその地域あるいは他の地域の研修所のコース・スケジュールから自分の受けたいものを選んで、お金と時間を費やして受けているわけです。
 前置きが長くなりましたが、特に上田法技術を習得したからといって、前回述べたようなセラピー実施に伴う加算がつくわけではありません。高いお金と時間を使ってセラピストが得るものは、好奇心を満足させるくらいのものです。
 さて、果たして上田法はこの国で上手く受け入れられるのでしょうか?その話は次回のココロなのだ‼(その3に続く 文責:西尾幸敏)



2017年8月29日
上田法講習会 ドイツへの道のり(その3)
 ドイツのマニュアル・セラピーの講習会などを受けてみるとわかりますが、最初に機能解剖学の内容から始まります。つまり機能と構造の関係を理解することからはじめます。そして痛み発生のメカニズムの仮説を学びます。運動器の構造や働きに問題があって、痛みや可動域低下が生じるのだと学ぶのです。そしてそれを基にして治療手技の内容を学んでいきます。問題と原因の因果関係を明確にし、治療手技がどのように問題を解決するのかを理路整然と学ぶのです。
 上田法講習会に初めて参加したドイツ人セラピスト達はこれまでも何種類もの治療手技の講習会を受けていて、更に飽くなき知識欲と好奇心に溢れた意欲的な方達です。徒手療法の猛者達です。当然上田法にもそのような講習内容を期待してきたのだと思います。
 でも初めて上田法講習会に参加したドイツ人受講生達はかなり困惑したように思いました。
 というのも上田法技術というのは基本「多要素・多部位に対する同時アプローチ」です。人の運動は多要素・多部位の相互作用から成り立っています。それぞれの要素間の相互作用の影響をバラバラにして因果の関係で見ることはしないのです。
 上田法は「原因を探してアプローチするのではなく、ただ状況を変化させる」技術であり「特定の要素ではなく多要素・多部位に変化を起こす」徒手療法です。ドイツ人セラピスト達にはおそらく初めての経験だったのでしょう。初めて上田法に出会い、戸惑い、そしてあるものは不満を持ったのです。
 しかし・・・(その4に続く)



2017年9月4日
上田法講習会 ドイツへの道のり(その4)
 ドイツで上田法は他の徒手療法と大きく異なっているために戸惑いと共に迎えられたのです。にもかかわらず、彼らは非常に熱心に取り組み、短期間に基本技術の大半を身につけてしまったのです。
 上田法に戸惑いや不満を持ちながら、それでも彼らが未知の新しい治療技術を熱心に身につけようと努力するのは、既存の治療手技やアプローチに彼らが満足していないからということはすぐにわかりました。
 多くのセラピスト達が、脳性運動障害の壁にどう挑むかで悩んでいます。脳性運動障害の患者では様々なレベルで思うように運動課題が達成できない状態が見られます。それは決して「治る」ことはないのかもしれませんが、それでもその状態が今より少しでも改善できないものかと皆手探りで前に進もうとしているのです。
 上田法が他のアプローチと明らかに異なっている点は明白です。多要素・多部位の同時アプローチであり、脳性運動障害に見られる過緊張を様々な要素の相互作用の結果と捉えている点です。(既存のアプローチは神経系メカニズム単一要素の因果関係によって説明されていることが多い)
 理屈はどうであれ、それまでになかった発想で生まれ、現実に脳性運動障害の状況を目に見えて変化させる上田法は、脳性運動障害の壁に対する新しい突破口として、口コミでドイツ人セラピストの間に広がりつつあります。(その5に続く)



2017年9月10日
上田法講習会 ドイツへの道のり(その5)
 ドイツ講習会の2回目以降は国際インストラクターの浦川・柴田・大塚をはじめ、次第に若いインストラクターが交代で何名も参加するようになりました。そして皆がドイツ人セラピスト達の熱い思いに触れ、刺激されました。
 上田法講習会に参加するドイツ人セラピストにとって上田法は脳性運動障害に対する新しい突破口としての期待が大きいのです。ドイツ講習会に参加した日本のインストラクター達はこの期待を肌に感じて、「上田法はもっともっと良くならなくてはいけない」と思うようになりました。
 上田法講習会のドイツ進出は、上田法を語る上での一つのターニング・ポイントだったかも知れません。世界に受け入れられただけではダメなのです。自分たちをもっと変えて、上田法をさらに進化させ、世界をもっともっと変えなくてはいけないと気づかせてくれた大きなきっかけになりました。
 現在、上田法技術はシニア・インストラクターの江藤を中心に、より効果的なものへと進化を続けています。また講習会では勝浪による「多要素、多部位での因果関係の説明」が理論的背景として用いられ、ドイツ人セラピストを技術以外でも納得させるようになっています。そして上田法によって起きた状況変化をアプローチ全体の中でどう考えるかについては西尾のCAMR理論(「PT・OTが現場ですぐ使えるリハビリのコミュ力」(金原出版))として説明され始めています。技術も理論もアプローチも熱を帯びて発展途上なのです。(まとめに続く)



2017年9月18日
上田法講習会 ドイツへの道のり(まとめ)
 ここまでの12回のベーシック講習会の受講者は167名、アドバンスコースは7回開かれのその受講者は89名になります。ベーシック受講者2人のうち1人はアドバンスコースを受けていることになります。本当に熱心です。
 そして昨年は遂にドイツ人インストラクターが3名誕生しました。それによってドイツ人インストラクターだけによってすでに3回のベーシック認定講習会が開かれました。
 アドバンス・コース開催には国際インストラクターの参加が必要です。しかしいずれドイツ人インストラクター3人が国際インストラクターになり、日本からの派遣がなくてもドイツ国内だけでアドバンスの認定講習会を開く日も近いでしょう。(終わり)
また日本の若い人達に!
 上田法はまだまだ進化を続けなくてはいけません。ドイツだけでなく韓国でも世界進出を始めた上田法ですが、後を繋いで、更に発展させてくれる若い力が必要です。技術も理論も研究も!今から精進してみませんか?やる気のある方はベーシック・コースあるいは勉強会へお申し込みください。(終わり)
※来週からドイツ、ニュルンベルグで第8回のアドバンス・コース開催の予定です。勝浪国際インストラクターが参加予定です。勝浪先生の現地からのレポート配信を楽しみにしています!




 

2017年10月8日
上田法が言葉の壁を越える訳
 上田法は今のように治療効果の説明や手技の手順などが確立する前から、ドイツ・韓国などで講習会を開催し、それがその後も継続されています。
 特にドイツではベーシック受講者のうち半数以上がアドバンスコースを受講しています。
 どの国でも「効果の理論的説明が不明確」と言われます。それでも講習会は各国のセラピスト主体で続けられています。言葉の壁があって、言いたいことは多く伝わりません。それでも現場での経験が言葉を越えてくるのだと思います。(文責:西尾幸敏)