人の運動システム(西尾幸敏)2016年2月18日-2016年4月21日

 

 

 

 

2016年2月18日
西尾です。新シリーズ?^^;です。
人の運動システム(その1)
 機械の一部が壊れるとひたすら誤作動を繰り返します。その誤作動は意味がないので「意味のある作動になんとか変化させよう」と言ったことは機械には起きません。
 一方人の運動システムの一部が壊れます。そうするとひたすら意味のない誤作動を繰り返すということはありえません。人の運動システムは常に生きるための課題を達成しようとします。システムの一部が壊れると、システムを作り直してこれまでとは異なった方法で必要な課題を達成しようとする性質があるからです。見た目、上手く機能していなくても常に努力は続けられているのです。(その2に続く)

  2016年2月25日
西尾です。続きです。
人の運動システム(その2)
 腰痛があると体幹部を硬くして体幹の動きを制限し、痛みを防ごうとします。痛みという問題に、「体を硬くする」というやり方で対応しようとしているのです。
 一方で、脳卒中後に見られる麻痺側上肢の屈曲や下肢の尖足位などの硬くなる現象は普通症状として考えられています。つまり脳が壊れた直接の結果(症状)だというのです。でも脳卒中直後には麻痺側の上下肢は弛緩してフニャフニャになっているものです。この状態では動けません。つまりこの場合も動き出すために体を硬くしているのではないでしょうか?これは症状ではなく解決方法では?(その3に続く)

2016年3月3日
西尾です。このシリーズは毎週木曜日夜に投稿予定です。
人の運動システム(その3)
 人の体は可動性のある骨格が筋肉に包まれて、支持性や運動性を瞬時に切り替えながら無限の動きを生み出し、環境に適応しています。ところが脳卒中後、麻痺した筋肉は収縮しなくなり、力が生み出せなくなります。
 麻痺した手足は力を生み出せず体を支えることができません。
 そしてフニャフニャになった筋肉は水の袋のようなものです。人の体は、可動性のある骨格が水の袋に入ったような状態です。重力に押しつけられて床に貼り付いたようになって動けなくなってしまいます。あるいは麻痺した腕は水の袋のように肩からぶら下がり、揺れてはバランスを崩してしまうのです。(その4に続く)

2016年3月10日
西尾です。
人の運動システム(その4)
 麻痺した脚は体重を支えることができませんが、硬くなれば体重を支えて良い方の脚を振り出すことができます。
 麻痺した半身は水の袋のように床に貼り付き、動き出すことができません。しかし硬くなって一つの塊になれば、健側の半身によって引きずってでも動くことができるようになります。
 麻痺した上肢は水の袋となってブラブラと揺れて体のバランスを崩します。しかし体に貼り付くように硬くなればバランスを崩すこともなくコントロールが容易になります。
 このように脳卒中後に麻痺したフニャフニャの身体を硬くする方略は、CAMRでは「外骨格系スキル」と呼ばれます。(その5に続く)※毎週木曜日夜に投稿予定です。

2016年3月17日
西尾です。漸く半分です^^;
人の運動システム(その5)
 運動システムの体を硬くするという解決法(外骨格系スキル)は、麻痺した体で「動き出す」という効果をもたらす一方で副作用を伴うものです。動くことはできますが、その硬さはしばしば過剰なものになり、滑らかな動きを妨げ、目的の達成を邪魔することさえあります。更に痛みを起こすことも。(その6に続く)※毎週木曜日夜に投稿です(^^)!

2016年3月24日
西尾です。
人の運動システム(その6)
 脳卒中後の過緊張が「脳細胞が壊れた結果の症状である」と考えると、過緊張は抑えられるべきものと考えられるでしょう。課題達成を邪魔している症状だから。
 でもCAMRでは過緊張は弛緩した状態から動き出すための解決手段の一つだと考えます。課題達成を邪魔をするのは調整が上手くいっていないからです。CAMRのアプローチでは過緊張は抑制されるべきものではなく、適度に調整されることが必要だと考えます。(その7に続く)※毎週木曜日夜に投稿です(^^)!

2016年3月31日
人の運動システム(その7)
 外骨格系スキルはどんなときに必要以上に硬さを生み出し、運動課題の達成を邪魔したり、痛みを起こしてしまうのでしょうか?
 少し前には「努力性の運動を繰り返すから硬くなるのだ!」などと言われていました。確かに健常者でもそうなのですが、新しく難しいスキルを習得する(スポーツや自動車の運転など)ときには、過剰な努力をして体全体を硬くしてしまいますよね。ベテランが初心者に「もっと体の力を抜いて」などとアドバイスするのはまさにこのことですよね。
 短時間で見ると確かに、「過剰な努力→過緊張」と見られますので、因果の関係が成立しているように見えます。だからそのような間違った結論に飛びついてしまったのでしょう。(その8へ続く)※毎週木曜日夜に投稿です(^^)!

2016年4月7日
人の運動システム(その8)
 「努力性の運動が過剰な硬さを生み出す」というアイデアは、短いスパンで観察されたために起きた誤解であると前回述べました。というのも多くの場合、努力性の運動を終えた後にはリラックスの状態が訪れるからです。さらにもっと長いスパンで見れば、努力性の運動を長期にわたって継続している方こそが柔軟性も運動性もバランス良く維持していることに気がつかれるでしょう。
 僕の経験から言うと、外骨格系スキルが過剰な硬さを生み出す条件としては、安静や不使用などです。適度な努力性の運動やそれに伴う荷重、より広い可動域を使った運動を継続することが外骨格系スキルの生み出す過剰な硬さに歯止めをかけるのです。(その9に続く)※毎週木曜日夜に投稿です(^^)!

2016年4月14日
西尾です。あともう少しです。おつきあいください。
人の運動システム(その9)
 CAMRの視点から見ると、外骨格系スキルは通常の筋力発生のメカニズムを失った運動システムが、再び動き出し運動課題を達成するための問題解決なのです。できることには限界があり、さらに安静などの状況で、そのスキルは暴走し、必要以上の硬さを生み出します。
 これに歯止めをかけるのは適度な努力性の運動とそれに伴う荷重経験やより広い可動域で運動をする経験を継続していくことです。
 CAMRの治療方略では、足場作り(運動前の心身の準備状態を作ること)の中で上田法などの徒手療法を使い柔軟性を広げます。そして広がった柔軟性を利用して、普段使われないより広い範囲での支持と重心移動の働きを強めたり、切り替えたりする運動課題を実施します。(最終回に続く)※毎週木曜日夜に投稿です(^^)!

2016年4月21日
西尾です。漸く漕ぎ着けました^^;
人の運動システム(最終回)
 機械、たとえば時計は部品の一つが壊れてしまうとその作動を止めてしまいます。残った部品で何とか動こうなどということはあり得ません。
 逆に人の運動システムは脳や筋肉などの部品が壊れたからと言って簡単に作動を止めてしまうことはありません。残ったリソース(資源)をかき集め、課題達成のための新たな方法を生み出そうとします。成功しなくてもともかく課題達成に挑戦し続けます。これがCAMRから見た人の運動システムの本質です。
 このシリーズではこの例として脳性運動障害後に生じる過緊張を取り上げてみました。運動システムは障害に対して何らかの問題解決を図ろうとしているはずです。整形疾患でもバーキンソニズムでも小脳失調その他の障害でも同じです。障害とそれに対する問題解決を分けることによって、元の障害の性質がより明らかになるし、リハビリでできることが明確になると考えています。(終わり)※毎週木曜日に投稿します。来週からは新しいシリーズです(^^)