僕たちが学生時代に習った治療方略(西尾幸敏)2016年10月6日-2016年12月8日

2016年10月6日
西尾です。約1ヶ月間のご無沙汰でした。久しぶりに木曜日の夜に帰ってきました(^^)
僕たちが学生時代に習った治療方略(その1)
 ここでも再々述べるように、治療方略と治療技術は我々セラピストにとっては問題解決のための両輪です。
 「でも学生時代まで遡ってみても治療方略なんて習った覚えがない。治療技術ばかり習ってきたよ」と言われるかもしれません。
 いえ、実は習ってきているのです。学校で習うのはたった一つの治療方略なのでわざわざ治療方略などと構えることもなかったのです。みなさん、立派に一つの治療方略を身につけておられるのです。ただ言葉として体系的に説明されていないだけです。
 僕たちは学生時代、その治療方略を無意識に教え込まれ、その治療方略に沿って必要な技術を教え込まれているわけです。
 「その治療方略を言葉にしてみよう!」が今シリーズのテーマです。(その2に続く)
※CAMRのHPもよろしく!
http://www.ne.jp/asahi/contextual-approach/workshop/


2016年10月13日
西尾です。カープが王手!(^^)
僕たちが学生時代に習った治療方略(その2)
 僕たちは患者さんの運動問題を見つけ、理解し、解決する方法を習っています。
 たとえば最近歩行が不安定で転倒しやすい患者さんがいます。そうすると「なぜ転倒しやすい?」と問いを立てて、その原因を探していきます。
 原因を探すためには運動システムを構成する要素に分けて、それぞれの要素を評価します。たとえば筋力はMMTで、可動域はROMテストで、感覚を感覚テストで調べます。脳性運動障害があれば、マヒの程度やコントロールの程度、高次脳機能障害の影響などを調べます。
 これらの要素の中でたとえば筋力低下があれば、これが転倒の原因と考えられるわけです。だから筋力を強化しようというアプローチが出てきます。(その2に続く)※毎週木曜日夜に投稿します。


2016年10月20日
西尾です。黒田の引退にドラフト会議。そして日本シリーズ!まだまだ続きます!
僕たちが学生時代に習った治療方略(その3)
 僕たちが学生時代に習った治療方略は、「因果関係のアプローチ」あるいは「whyのアプローチ」と呼ばれます。そして以下の特徴を持っています。
 ①原因を探し、その原因にアプローチする。
 ②運動システムとは皮膚に囲まれた人の体そのもの
 ③原因を探すために運動システムを「筋力、柔軟性、持久力、感覚、協調性、バランスなど」要素に分ける。(要素の分け方は色々あります)
 ④要素毎に問題がないかを調べる。
 ⑤問題のある要素が原因であるので、その原因である要素にアプローチする。
 次回はこの治療方略の問題を考えてみましょう。(その4に続く)


2016年10月27日
僕たちが学生時代に習った治療方略(その4)
 「因果関係のアプローチ」あるいは「whyのアプローチ」は基本原因を求めて原因にアプローチします。ところがマヒのように治せない、つまり解決が不可能な原因もあります。失調症やパーキンソンの原因を治すこともできません。
 複数の原因が様々に絡み合っていて、どうアプローチしていいのかわからないとき、あるいは原因が全くわからないときもありますよね。
 原因を追及しても解決が不可能だったり、原因が複数で複雑な状態だと原因にアプローチすることは困難になります。現場ではよくあることですよね。(その5に続く)※毎週木曜日夜投稿です。


2016年11月11日
西尾です。「毎週木曜日夜投稿」と言っていたのに昨晩は忘れておりました。反省です。
僕たちが学生時代に習った治療方略(その5)
 CAMRのアプローチはシステム論を基にしています。このアプローチの特徴は、「Whyのアプローチ」に対して、「What & How のアプローチ」です。「なぜ?」と問うて原因を探すのではなく、「何がどうなっている?」と問うことによって、問題発生の過程を明らかにします。
 問題発生の過程が明らかになれば、その過程を変化させる工夫をします。過程が変化すれば結果も変化するというわけです。少しややこしい気もしますが、具体的に説明すると「ああ、それなら私もやっている!」という方が結構おられると思いますよ(^^)(その6に続く)
※毎週木曜日夜投稿です。
※CAMRのHP http://www.ne.jp/asahi/contextual-approach/workshop/


2016年11月17日
僕たちが学生時代に習った治療方略(その6)
 具体的に考えてみましょう。「歩行不安定」という問題を持った患者がいます。この方をたとえば実習生に見てもらいます。実習生は学校で習ったように運動システムを構成する要素毎に可動域検査、筋力検査その他を行い、両下肢の筋力低下を発見します。そしてあなたに報告するでしょう。「歩行不安定の主な原因は両下肢の筋力低下にあります。アプローチは両下肢の筋力強化です。」なかなか優等生です(^^;
 でも臨床経験の豊富なあなたは満足しないでしょう?あなたは学生にしっかりとした見本を見せるべきと考えました。「あらあら、人の運動システムの問題はそんなに単純じゃないのよ!見てらっしゃい!」
 そして「どんな風に転げてるの?何が起きているの?」と患者さんとその家族に聞いてみます。その結果・・・・(その7に続く)※毎週木曜日夜投稿です。
※CAMR HP  http://www.ne.jp/asahi/contextual-approach/workshop/


2016年11月24日
僕たちが学生時代に習った治療方略(その7)
 毎朝起きて、ベッドから立ち上がりトイレに行く途中に多く転げていることがわかりました。そこであなたはこの問題発生の状況を次のように仮定します。
 朝、尿意を感じて動き出します。一晩同じような姿勢で寝ていると、体の柔軟性はかなり低下します。その状態で動き始めても可動域が低下して躓きやすくなります。暗い部屋の中で、手探りしながら起き出します。住み慣れた部屋とは言え、視覚情報の手がかり無しに動き始めるのです。更に最近は下肢の筋力も低下気味・・・等と色々な条件が重なって転倒を繰り返していることがわかります。
 どれが原因と言うわけでもないのです。転倒はそのような様々な要因が重なった状況の中で多く繰り返されているのです。(その8に続く)


2016年12月1日
僕たちが学生時代に習った治療方略(その8)
 前回、転倒が繰り返される状況がわかりました。あなたは学生さんに言います。「確かに筋トレは必要ね。でも明日の朝の転倒は防げないよね?」そしてあなたは家の中を探して、食堂で使われていない椅子を見つけてベッド脇に置きます。そして患者さんに言います。「朝起きて立ち上がったらまずこの背もたれを持って足踏みをしてみてください。それから歩きましょう!」
 あなたは経験的に問題発生の状況を1つ変化させました。ほんの一例です。
 実はCAMR(カムル)のアプローチは、このような「その時、その場で起こせる状況変化」を積み重ねて異なった結果に導くのです。この患者さんの場合、15-20の状況変化の方法を思いつきます。その中から実施可能なものを行っていきます。
 あなたが臨床で経験的に身につけたアプローチと共通するところも多いと思うのです。(その9に続く)


2016年12月8日
僕たちが学生時代に習った治療方略(その9 最終回)
 CAMRはシステム論を基にした医療的リハビリテーション・アプローチです。
 前回までに述べたようにすべてが新しいものではありません。臨床で良いセラピスト達が自然に発見し、身につけた治療方略や技術、工夫とかなり共通しています。ただそれを言葉として体系的にまとめたものと言えるでしょう。
 言葉にすると以下のようないくつかのルールにまとめられます。
1.原因を切り離して考えてみる(原因ではなく状況の変化にアプローチ)
2.足場作り(気持ちを読み、気持ちを動かす試み。心と体の準備状態を作る技術。先輩セラピスト達が無意識にやってきたことだと思います。)
3.運動システムの「症状」と「問題解決」を分けて考える(人は生まれながらの運動課題達成者あるいは運動問題解決者。障害があるからと受け身になっているわけではありません)
4.まずいつでも運動余力を豊富に!(リソースを豊富に、スキルを多彩に!)
5.やってみて、何も起きない(停滞)なら、好ましくない状況(悪循環)ならやめて違うことを試す!
6.試行錯誤でたくさんの成功体験を!・・・
 ルールはまだ整理できていません(^^;(終わりです)