「支配する痛み」と「管理される痛み」(西尾幸敏)2015年4月7日-2015年4月29日

 

 

 

「支配する痛み」と「管理される痛み」 2015/4/7
-CAMRの治療方略 「痛み」
 戦争にたとえるなら「武器の使い方」が「治療手技」、地形・敵の陣形・戦力を見て、味方の兵力をどう動かしどうやって戦うかの見通しと計画を立てる「戦略」が「治療方略」に当たります。
 たとえば痛みに対する治療においては、痛みを軽減したり改善したりする徒手療法や温熱などが「治療手技」になります。そして痛みを取った後にその後の見通しとどのような計画を持つかが「治療方略」になります。

   痛みを訴える患者様の痛みを改善し、「痛くなったらまたきてね」というのも一つの方略。それは痛みに支配された状態から、「痛みの管理をその道のプロに任せる」という選択です。ただし患者様に時間的、経済的余裕があってプロに任せた方が安心という方向きです。
 一方で時間的・経済的に余裕がなくて、自己管理が必要な方。余裕はあっても痛みを積極的に自己管理したいと言われる方もいて当然です。ではそんな方々にセラピストとしてどのような治療方略を展開しますか?
 そんなところから生まれたのがCAMRの「支配する痛みを管理される痛みへ」方略です。これは痛みを改善しながら、その痛みをどう自己管理していくかを患者様ご自身に経験、理解していただくための治療方略です。
 戦いに勝つという戦略(全体の見通しと計画)がなくても、銃の腕が良ければなんとか目の前の敵を倒して結果的に戦いに勝つかも知れません。単純な決闘ならそれで良いのでしょう。しかし病気や障害の問題は「正々堂々と挑んでくる」訳ではありません。痛みを改善するだけで患者様の生活が良くなることもありますが、痛みを改善しただけではなにも変わらないことだってあるのです。


CAMRの治療方略 「脳性運動障害後に見られる独特のスキル」(その1)2014/4/19
 システム論を基にしたCAMRでは「人は生まれながらの自立的な課題達成者あるいは運動問題解決者」であると考えます。たとえば赤ちゃんは誰に教えられるわけでもなく様々な課題を達成するようになりますし、脳卒中後の片麻痺では麻痺のある体でぶん回しなどの独特の歩行スキルを編み出して歩行という機能を生み出します。
 従来的なアプローチのいくつかでは、片麻痺者の独特の歩行スキルは、脳障害の直接の結果(症状の一つ)であり、つまり「異常なパターン」として考えられる傾向にあります。従ってそれを抑制しようとします。また健常者の運動をモデルとしてそれを行わせようとします。でも麻痺のある体で、健常者の運動はできませんし、セラピストが手伝っても手を離せば元通りです。日本には50年以上前からこの考え方が入っていますが、望んだ効果を手にしているのでしょうか?
 CAMRは異なったアプローチをとります。クライエントは麻痺のある体でなんとか問題を解決し、課題を達成しようとされます。しかし障害直後の自分の体がどんなに変化したかを十分に理解していない時に生み出されたスキルです。使われていない、試されていない運動余力があるかもしれない。クライエントは目の前の解決策に飛びつき、ひたすらそれを繰り返しておられるだけかも知れません。(それらの解決法には「外骨格スキル」、「不使用スキル」、「骨靱帯性支持スキル」などがあります)
 でも、まだもっと良いスキルが隠れているかも知れないのです。
 だから私たちセラピストはクライエントと協力して、新しい可能性を探索できるのです。健常者の運動がモデルではありません。僕たちセラピストが知っているのでもありません。クライエントご自身が実は持っておられるのです。


CAMRの治療方略 「脳性運動障害後に見られる独特のスキル」(その2)2015/4/29
 人の体は内骨格系と言って可動性のある骨格が筋肉に包まれています。もし麻痺などによって筋の張力が失われてしまうと、骨格は水の入った袋にはいっているようなもの。自身の重さによって床にべたっと押しつけられ、動くことができなくなります。脳卒中直後の麻痺側の半身はそんな状態です。
 そこで片麻痺の方は動き出すために、まず「体を硬くする」方略が必要になります。麻痺側の半身を硬くすることで、塊として健側について動けますし、その分、コントロールも容易になります。片麻痺の方の体は発症直後には弛緩性ですが、徐々に硬くなってくるのにはそんなわけがあるのです。つまり弛緩の問題を解決するために硬くしてこられるのです。
 もちろん健常な時のように、力強いしなやかな動きと強固な安定性を一瞬にして切り替えることはできません。しかし硬さを生み出すことは、とにもかくにも動き出すために必要な支持性を生み出してくれるのです。
 これは外骨格系の動物に似た運動方略です。外骨格系の動物である昆虫やカニなどの甲殻類では体の支持は外骨格によって行います。たとえば死んでしまっても立っていることができるのは外骨格の支持性のためです。そして運動は関節のみで行います。運動課題を達成するためには関節の動きだけに注意を集中すれば良いわけです。
 「力強いしなやかさ」は生み出せなくても「硬さ」を生み出して支持性を得ようとする方略をCAMRでは「外骨格系スキル」と呼んでいます。
 外骨格系スキルによって、立ったり歩いたりができるようになる方がいる一方で、コントロールの利かないこのメカニズムは、硬くなりすぎて不利益をもたらすこともあります。したがって僕達セラピストはこのスキルのメカニズムと働きについて良く理解することがアプローチの基本になります。