医療的リハビリテーションで使われる二つの理論的枠組みの違い-二つの異なる理論的枠組みから見る上田法(その2)

医療的リハビリテーションで使われる二つの理論的枠組みの違い
   -2つの異なる理論的枠組みから見る上田法 -
葵の園・広島空港 理学療法士 西尾幸敏
(上田法治療ジャーナル, Vol.24 No.1, p3-35, 2013) ”
 ここからようやく本文です(^・^)
 
 それでは、始めます。  

医療的リハビリテーションで使われる二つの理論的枠組みの違い
   -2つの異なる理論的枠組みから見る上田法 - その2
葵の園・広島空港 西尾幸敏

2.従来型アプローチとCAMRの基本的枠組みの違い
 図2を見ていただきたい。これは従来型アプローチ(特に神経生理学的アプローチを中心に)とCAMRの違いをまとめたものだ。この表にそって両者の考え方の違いを説明したい。
  図2 脳性運動障害に対する従来的アプローチとCAMRの枠組みの違い(西尾2013)
(申し訳ないです。表が大きすぎてどうもレイアウトとかうまくいきません^^;内容はとりあえず本文を読めば分かると思うのですが・・・)
    ① 基本的な考え方の違い その1
 Whyのアプローチか、What & Howのアプローチか?
 従来型アプローチの考え方は、還元論の枠組みである。先に述べたように色々な複雑な現象でも、より基本的なレベルの要素に還元する。そしてその要素を原因とし、問題とする現象を結果として直線的な因果の関係を想定する。たとえば脳性運動障害では、「過緊張の存在が原因で、健常な運動の出現を邪魔している」などと説明する。
 このアイデアを簡単に表現すると、Whyのアプローチということができる。「なぜ?」と原因を追及し、その原因に働きかける。つまり「過緊張の存在が運動の出現を邪魔しているなら、過緊張を取り除くようなアプローチをすれば良い」となるわけだ。つまりWhyのアプローチは「原因追及のアプローチ」である。
 一方でシステム論を基にしたCAMRは、What & Howのアプローチということができる。まず最初に「なに?」と問うからだ。何について「なに?」と問うかというと、ある現象が起きたとき、その現象を起こしているシステムは何かと問う。そしてそのシステム内でどのような関係性が形作られ、どんな結果を生み出していているかを探るのである。
 そういった意味でこのアプローチは、「関係性追求のアプローチ」と呼ぶことができるだろう。
 たとえば重度の脳性麻痺者で過緊張の状態を生み出すことを考えてみる。
内骨格の脊椎動物にとっては、脳性運動障害などで筋の張力発生の能力を失うことは重大である。重力に逆らって姿勢を支え、動き出すことが困難となる。重力に押しつぶされ、体は地面にへばりついたまま為す術がなくなる。筋の張力を生み出すことは、自ら動き出すための最初の条件の一つである。
 しかし脳の障害で、神経筋システムによる筋の張力発生のメカニズムが壊れてしまう。困った!そこで運動システムは作動の形態を変える。メインの張力発生メカニズムが働かなければサブのメカニズムをフル動員して張力を生み出そうとする。いわゆる反射メカニズムであり、筋の粘弾性メカニズム(たとえばキャッチ収縮4))である。これらは重力や床の反力、あるいは他の色々な刺激によって活動するようになる。
 ところがこれらの補助的なメカニズムは調整が上手くいかない。筋群の硬さは生み出すが、硬くなりすぎたり硬さが必要以上に持続したり、やがては筋の構造的短縮を引き起こしてしまう。しかしそれでも張力発生が収まることはない。短くなった筋肉はその中で更に様々な刺激を受けて収縮を続ける。そしてますます変形を強める。丁度図3のような悪循環を描くようになる。
 正常な神経筋反射のメカニズムが失われ、サブのメカニズムが代償的に筋の張力を生み出すというこの循環図で見られるのは、原因から結果に至る直線的な因果関係ではない。張力発生のメカニズムという要素が重力や床からの刺激といった様々な要素と影響し合いながら、原因-結果を循環的に繰り返している状態である。

図3 重度脳性運動障害者における過緊張が強まる様子を示す悪循環の関係図
筋の硬さを求めてサブシステムを使って収縮する

サブシステムは調整が利かないため時間的にも空間  ←←
的にも過剰に収縮する                ↑
    ↓                     ↑
やがて筋は構造的な短縮を起こす           ↑
    ↓                     ↑
関節の変形や姿勢の異常を引き起こす         ↑
    ↓                     ↑
それでも床や重力、その他の色々な刺激を受けて・・・→↑

 いや、そうではあるまい、と言われる方もおられるだろう。最初に脳細胞が壊れたことが原因で、その結果身体が硬く変形しただけではないか、と言われるかもしれない。だが脳細胞の破壊だけでは、多くの場合弛緩状態が見られるだけである。しかし重力の影響が強く働く。重度脳性運動障害の方に温水プールに入っていただき、重力の影響が弱まると緊張が緩むことはよく知られている。重力は張力を発生させる要素であるし、床からの反力も、痛みもそして動こうという意思などもそうである。そのような様々な要素の相互作用から張力発生は強められ、また上のような循環関係を生み出すのである。
 最初に「システムがなに?」と問うと言ったが、人の運動システムは皮膚に囲まれた中にあるだけでなく、重力や床などの環境も含んでいることが分かる。人の身体だけで上のような循環図を描くことはできないだろう。単純に脳細胞が壊れる→筋緊張の亢進状態といった直線的な関係を描ける訳ではない。
 なんだか屁理屈をこねているようだ。だがこの両者の違いは脳性運動障害者の生み出す運動の捉え方に大きな違いを招くことになる。