今回は上田法治療研究会のFacebook Pageに載せた単発の「上田法が言葉の壁を越える訳」と5回のシリーズの「上田法とは何か?」の2つを載せてます。
2017年10月8日
【上田法が言葉の壁を越える訳
上田法は今のように治療効果の説明や手技の手順などが確立する前から、ドイツ・韓国などで講習会を開催し、それがその後も継続されています。
特にドイツではベーシック受講者のうち半数以上がアドバンスコースを受講しています。
どの国でも「効果の理論的説明が不明確」と言われます。それでも講習会は各国のセラピスト主体で続けられています。言葉の壁があって、言いたいことは多く伝わりません。それでも現場での経験が言葉を越えてくるのだと思います。(文責:西尾幸敏)
2017年10月16日
上田法とは何か?(その1「上田法とは?」)
上田法は1988年に小児整形外科の医師である上田正先生が開発した治療法です。
上田法治療は、脳性麻痺や成人の脳血管障害などで見られる筋の硬さを和らげ、突っ張った体の柔軟性を改善します。その結果、運動範囲や重心の移動範囲が広がって、楽に動けるようになったりします。また重度の運動麻痺でも呼吸が楽になったり、こわばりによる痛みが消えたりします。
上田法は技術としては間口が広く、奥が深いと言えます。間口が広いというのは、いくつかの実施上のポイントさえ押さえれば誰がやってもある程度の効果を生み出すことが多いからです。つまり他の治療手技のように解剖学や運動学の知識がなくてもある程度効果のある手技を習得することができます。従って上田法にはセラピスト以外の他職種(看護・介護・教師など)のコースが開かれています。また患者の家族に指導が行われ、継続的に実施して好結果が得られることもあります。
一方で解剖学を基にキチンとポイントを抑えたり、患者さんの心身状態をより専門的に把握できるようになると更に大きな効果が得られることが分かっています。そこを突き詰めていくととても奥の深い技術なのです。(その2に続く)(文責:西尾幸敏)
2017年10月23日
上田法とは何か?(その2「上田法の特徴」)
上田法技術は過緊張によって短縮した状態にある筋肉を伸張するのではなくて、より短縮位になるような肢位に置く、つまり普通のストレッチ訓練とは逆の操作をすることで筋緊張を落とすということを基本コンセプトにしています。
クライエントは施術を受ける間、実に気持ちよさそうにしているし、時には眠ってしまいます。終わった後には筋の過緊張も低下しスッキリした表情をしているのです。
「少々は痛くても仕方ない」、「大抵は苦しいもの」、「患者自身が努力するもの」などといった“リハビリ“に対する一般の人が抱く常識を覆すものです。
上田法はクライエントが頑張らない治療です。周囲を探索したり、感じたり、動かしたりなどの行為システムを再構築する(過緊張によって動きにくくなった身体を柔らかくして、患者自ら動いて世界との関わりを持つための準備状態を作る)もので、一つのパターンとしてクライエントに教え込むような方法とはまったく違います。(その3に続く)(今回はシニアインストラクター江藤の私信からの文章を引用しています。西尾)
2017年10月30日
上田法とは何か?(その3「上田法の効果とは?」)
上田法は「何に、どのように効いているのか?」というのは上田法誕生当時からの疑問でした。上田先生は「まだ発見されていない神経回路があるのではないか?」という仮説を当初立てられていたようです。それもかなり長い間その仮説を基に、多くの文献に当たっておられました。
ただその後システム論に接して、「単一要素だけで説明するのは不自然だろう」という考えを持たれるようになっています。筋の粘弾性変化の要素(Horakの平滑筋の収縮などの仮説)などについても興味を持たれていました。
その後勝浪が広範な徒手療法の知識を基に、徒手療法でターゲットとするたくさんの要素(関節、筋、靱帯、筋膜、神経など)に広範に影響するのではないかという仮説が現在の有力な候補となっています。
また似たようなアイデアですが、西尾がシステム論のアプローチ(CAMR)の中でシステム論のアプローチの特徴として「多要素多部位同時アプローチ」という基本原理を提案しています。(「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版)この視点で見れば上田法はまさしく多要素・多部位同時の徒手療法であると理解することができます。(その3に続く)(文責:西尾幸敏)
2017年11月13日
上田法とは何か?(その4「最近の上田法の流れ」)
上田法は徒手療法として全身をターゲットにしていることが意識されるようになっています。シニア・インストラクターの江藤がたとえば上肢を操作しながらも全身が同時にリラックスすることが重要なポイントであると指摘し始めたからです。特定の部位に施術しているようでも、常に他の部位を含めた全身の状態が把握の対象であるのです。
そのような意味を含んで、「上田法は多要素・多部位(全身)に対して同時に影響を及ぼし、その結果様々な要素の変化の相互作用が効果となっているのではないか」と考えられるようになっているのです。
従来の徒手療法が問題の発生した部位周辺に原因を求め、特定の部位や要素に働きかけていたのとは対照的に、上田法は全身の状況を把握し、変化させ、その結果問題のある特定の部位を始め広範囲に効果を及ぼしていたわけです。
上田法が長い間、「何に働きかけて変化を生み出しているのか?」という疑問を持たれてもなかなか説明できなかったわけです。単純な因果の関係の視点では理解できなかったのです。
上田法は様々な構成要素の相互作用の関係を変化させていた訳ですから。(まとめに続く)(文責:西尾幸敏)
2017年11月20日
上田法とは何か?(まとめ)
上田法は当初、5つの基本手技がありました。
上田法誕生時からしばらくの間は、上田法の講習ではこの五つの基本手技の形を模倣することがより良い効果に繋がると考えられていました。従って講習会ではインストラクターの手技実施時の形を模倣することが普通だったのです。
その後シニア・インストラクターの江藤は、「全身の状態を把握し、それを基に身体各部位やポイントを適応的に操作することがより良い効果に繋がる」と上田法講習の方針の変更を行いました。つまり上田法にはいくつかの実施上の基本原理があり、その原理を基に「状況に応じて形は変化していくのが当たり前」という現在の流れができてきました。
この変革によって江藤は形にこだわることなく、状況に応じて手技の形を変化させながら多くの新しい基本手技などを生み出しました。
またそれによって各セラピストも一人一人の患者さんの個別の状況に応じて、より効果的に手技を応用できるようになりました。
初期に模倣に走ったのは、結局まだ上田法の本質というか原理がまだ理解されていなかったせいだと今では考えられます。
上田法はまだまだ発展途上です。上田法は進化を続けなくてはいけません。たとえば多要素多部位と言っても、まだ筋収縮という重要な要素とどのように組み合わせるかなどまだまだたくさんのことを考えていく必要があります。後を繋いで、更に発展させてくれる若い力が必要です。技術も理論も研究も!今から精進していろいろチャレンジしてみませんか?やる気のある方はベーシック・コースあるいは勉強会へお申し込みください。(終わり)(文責:西尾幸敏)