リソースという視点
2020年3月10日
リソースという視点
システム論では、リソースというアイデアがよく使われます。リソースとは資源のことですよね。
たとえば運動領域におけるシステム論の始まりの一人、ベルンシュタインはリソースについて以下のようなポイントを挙げています。
生物にとって
①リソースは有限である。その時その場で使えるリソースは更に少ない
②リソースが限られると、リソースを基にした行為も限られる
③リソースの有用性を見つけ出すこと、限られたリソースを有効に利用することは極めて重要な能力である
運動を例に挙げて見れば、廃用のある方は全身の筋力低下のために椅子から立ち上がることができません。身体内の筋力というリソースが不足しているのですね。両膝に両手をおいて、かろうじてお尻をわずかに持ち上げることができる程度です。何度もトライしますが立ち上がれず最後は立つことを諦めてしまいます。
そこへセラピストが現れます。セラピストはその患者さんの前にパイプ椅子を置いて、「これを使って」と言います。患者さんはパイプ椅子に手を置いてみるとなんだかこれまでの起立の試みとは異なった感覚をおぼえます。きっとパイプ椅子が前方への重心移動を大きくするのに役立つリソースだし、両手を身体の持ちあげに使えるリソースであることに気がつくからです。持ち方をいろいろ変えてみて一番力の入る持ち方を探して立ち上がりを試みますが、お尻がより高く上がるだけです。そこへセラピストがお尻を持ってほんの少し持ち上げると何とか起立することができました。
力の使い方がわかった患者さんは2回目は遂に自分一人で立ち上がることができます。繰り返すうちにドンドンスムースに立ち上がりができるようになります。また繰り返すうちに筋力が活性化あるいは強化されて、次第にパイプ椅子なしでも立ち上がれるようになります・・・
もしパイプ椅子が置かれなければ患者さんは「自分は立てない」という認識を持ったままでしょう。動く気をなくしてしまいますよね。でもセラピストがパイプ椅子を置き、その有用性を示唆したので患者さんは探索と試行錯誤を繰り返し、課題達成へと導かれます。更にそれを繰り返して身体内部の筋力というリソースを増やし、一人で楽に「立つ」という課題を達成できるようになったのです。
患者さんの運動システムの立場から見ると、「立ち上がる」という課題に対してパイプ椅子は起立に有効なリソースであるし、それを提供してくれたセラピストも非常に有用なリソースであるのです。
このようにリソースの視点に立って見るとリハビリとは、
①患者にとって有用なリソースを提供する仕事
②身体内や身の回りにある様々なリソースの有用性に気づかせてくれる仕事
③身体内にあるリソース(筋力・柔軟性・持久力など)を増やす仕事
④増えたりソースや新たなリソースを生活課題達成のためにどのように使うかという運動スキルの学習を手伝う仕事
であることがわかります。
このように見ていくと理学療法士はやや多めに身体内のリソースに焦点、作業療法士はやや多めに環境内のリソースに焦点を合わせていると言えるかもしれませんね。
※CAMRのホームページもよろしく!
https://rehacamr.sakura.ne.jp/
2020年3月17日
運動スキルという視点 前回簡単に述べたように、運動リソースは課題達成のために使われる資源のことでしたね。 今回は運動スキルについて簡単に説明します。 運動スキルとは「有用そうなリソースを見つけ、そのリソースを課題達成のためにどのように使うか?」という方法のことです。 小さい頃から私たちは様々なものを扱い、様々な環境の中で活動しています。そうやって身体内の筋力や柔軟性などの身体リソースや身の回りにある様々な環境リソースの有用性を引き出すトレーニングをしてきているのです。 前回は立てない患者さんの前にセラピストがパイプ椅子を持ってきたのですが、もし最初から患者さんの手の届くところにパイプ椅子があれば自然とそれに手を伸ばしたことでしょう。 よく観察すると多くの患者さんは「リソース探索と利用」の様々なスキルを披露してくれます。 ある方はT-caneの接地側を握り、T字型の持ち手を家具の脚に引っかけ、引っ張ることで起立のために使われます。担当セラピストは据え置き式の手すりは部屋が狭くなって歩くスペースがなくなるのでどうしようかと悩んでいたのです。しかし患者さんはあっという間に解決して見せました。 ある患者さんは障子をバリッと破って桟を握り、押しながら歩いて移動式の手すりとして使われました。障子のためにその場所は手すりをつけることができないと専門家は頭を悩ませていたのですが、これまた患者さんがあっという間に解決して見せました。 もちろんこれらの患者さんの見つけ出したスキルには実際上検討すべき問題も含まれます。(障子を破ることには抵抗を感じる家族もいるし、T-caneの持ち手の頑丈さも問題です)しかしこれらの患者さんが「リソースの有用性を見つけ出し、どのように課題達成に利用するか」という見事な運動スキルを見せてくれたのは間違いありません。 補助具や介護用品などの既製品をどう使うかばかりに頭が硬くなっている専門家に比べて、実に柔軟で学ぶべきことも多いのです。それはそうです。小さい頃から様々なものの有用性についてみんなが各自学んできているのですから。※CAMRのホームページもよろしく!https://rehacamr.sakura.ne.jp/
2020年3月24日
運動リソースと運動スキルの視点
前回・前々回のエッセイを読んで気づいた人もいると思いますが、運動リソースも運動スキルも患者さんの運動システムの立場に立ったときに初めて理解できるアイデアです。
というのも学生時代に習ったリハビリの知識には、運動リソース、運動スキルのアイデアはなかったと思います。つまり学生時代に習う知識とは、セラピストがセラビストの立場から患者さんの運動を見た目の形の変化と構造や要素とを関連させて理解しようという立場だからです。患者さんの運動システムの視点から見るなんてことはしないわけです。
もちろん運動を見た目の形や構造から理解する立場が悪いと言っているのではなく、セラピストとしてはとても大事なことです。痛みや課題達成不能や困難の原因が構造的にどの部分にどの程度あるかを探ることはごく当然です。
ただここで言いたいことは、運動システムの問題を別の視点から見ることができる、つまり複数の視点から運動問題を見て理解・説明することができるのはセラピストにとってとても有利だということです。理解や説明の仕方が違えば、それを基に異なった新しいアプローチを考え出すことが可能だからです。問題解決の選択肢の幅が広がるのです。
2つの異なったアプローチを使いこなせるようになると、セラピストとしての問題解決能力は大幅にアップします。もちろん簡単ではなくそれなりの努力は必要ですが、やりがいはあると思います(^^)v
そのために今年もCAMRの講習会を開催したいのですが、残念ながらコロナ・ウィルスの影響が弱まるまでは無理ですよね。また開催可能な状況になったら詳細をお知らせしますv(^^)
※CAMRのホームページもよろしく!
https://rehacamr.sakura.ne.jp/