医療的リハビリテーションで使われる二つの理論的枠組みの違い-二つの異なる理論的枠組みから見る上田法(図2)
図2 脳性運動障害に対する従来的アプローチとCAMRの枠組みの違い(西尾2013)
従来的な運動療法、特に神経生理学的アプローチ | CAMR | |
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基本的な考え方の違い1 | 還元主義あるいは直線的因果関係 運動障害の原因を、運動システム内の特定の要素に求める(還元主義)。そして結果との因果関係を想定する。「特定の要素が全体の振る舞いを決定する」と考える直線的な因果関係論。 Why(原因究明)のアプローチ 例:過緊張の存在が原因で、健常な運動の出現を邪魔する、など。 |
1.相互作用あるいは循環的関係 システム内の様々な要素間の「相互作用や循環的な関係が全体の振る舞いを決定する」と考える。 What & How(関係性究明)のアプローチ 例:弱い筋力で抗重力姿勢での支持性を獲得するために、様々な張力発生のメカニズムを利用し、支持性を得ようとする。結果体幹部は過剰に硬くなり、運動範囲が小さくなってしまうという過剰適応の状態を生みだす。支持性を生み出すことは適応的だが、弱った筋張力発生のメカニズムを最大限利用しようとする過程で過剰適応となってしまう。 |
基本的な考え方の違い2 | 障害に焦点を当てる 障害の程度と内容を評価し、障害にアプローチする。 例:反射や筋緊張の状態を評価し、反射や過緊張を抑制しようとする。 |
運動システムの作動に焦点を当てる 障害を治療するのではなく、機能を発達・改善しようとする。 例: ここからあそこに行くという課題を達成するためにどのような運動方略でも良いので、できるだけたくさん発達(改善)させる。 |
基本手な考え方の違い3 | 運動の形に焦点を当てる 運動科学が映画の技術と共に発達したため、一つ一つの姿勢の変化を運動と考え、運動の形にこだわる傾向がある。 例:正常歩行の形をモデルとして、異常歩行の形(協働運動や代償運動など)を矯正しようとする。 |
機能(運動システムの作動の結果生まれた運動)に焦点を当てる 例:歩行という機能は、状況に応じて形を変えるので、形に焦点を当てて、こだわるのは意味がない。形を変えてでも機能を維持すると言う特徴が重要。状況変化の中での機能の維持に焦点を当てる。 |
基本的な考え方の違い4 | 根本的な解決を目標とする傾向(麻痺を治そうとする傾向) 根本原因を探求し、その原因にアプローチする傾向。一見すると根本的な解決に見えるが、「脳性運動障害の麻痺を構造的・機能的に治そう」という達成不可能の目標(偽解決)に陥りやすい。偽解決に陥ると、「自分の技量がまだ未熟」とか「クライエントにやる気がない」などと原因を色々押しつけて、新たな問題を生みだしその問題は決して解決することはなくなる。 |
達成可能な目標の設定 達成不能な目標を掲げてしまうと、クライエントもセラピストも逆に苦しんでしまう(偽解決) まずクライエントとセラピスト共に達成可能な目標を設定。課題達成の成功か体験を積み重ねていく。この過程でクライエントには自立していく自信が生まれる。 例:座る、立つ、歩くなどのクライエント1人1人にとってできそうな機能の達成を目標とする。健常者の歩行の形を真似る、といった目標は持たない。この目標を持つと終わりなき目標の袋小路にはまり込んでしまう。 |
基本手な考え方の違い 5 |
運動をセラピストが教えるべき 「人は誤った運動を憶える、誤った運動を憶えると修正が利かない」と考える傾向。セラピストがクライエントの運動を管理する。 |
運動はクライエントが自ずと学んでいく 「人は生まれながらの運動問題解決者」として考える。セラピストは、運動のやり方をクライエントに任せる。 |
運動システムとは? | 皮膚に囲まれた身体のみ | 運動システムは身体だけでなく、その場その場で達成するべき運動課題に応じて、物や人などを含む自然環境や人工環境、社会的な環境も含まれる。 |
アプローチの目標 | 脳性運動障害者では間違った運動の形(異常運動・代償運動)があり、これを正そうとする。健常者の運動の形をモデルとして再現できるように。 | 正しい運動も間違った運動もない。その場その場で課題達成のため生み出された機能。また独特な運動や姿勢の形は、否定するのではなく受け入れていく。課題を達成する機能をできるだけたくさん発達(改善)させることが目標。 |