その12 探索とは何か?評価と探索の違いについて(その2)(田上幸生)

3.探索と遂行
前述の通り、僕は探索には必然性があるという立場をとっています。ここでいう探索とは運動の持つ“意味”に他なりません。運動に与えられたこのような意味合いを、ユクスキュル4)に倣って「トーン」という言葉を用いて表現すると、“すべての運動は多かれ少なかれ探索のトーンを帯びている”ということになります。
しかし、先に挙げたいくつかの例からもイメージできる通り、探索のトーンが占める割合は運動毎にマチマチのようです。例えば新奇な課題などでは、最初はどのように身体を使えばよいのかわかりませんので、探索のトーンが前面に出てくることになります。一方熟練した動作などでは、ほとんど無意識的にさしたる苦労もなく課題を達成できますので、探索のトーンはごくわずかになると考えられます。このような場合、探索以外のどのようなトーンが優位になっているのでしょうか?
例えばリードは5)、活動の種類を2つに分けています。一つは探索的活動で、もう一つは遂行的活動です。この分類に従えば、新奇な課題などでは探索のトーンが優位になり、熟練した動作などでは遂行のトーンが優位になると考えられます。つまり、すべての運動は探索と遂行という二つのトーンを帯びており、それらの割合はその時その場の状況に応じて変化する、というわけです。

4.探索の意義
 ここでは、リハビリテーションの臨床介入に関連した探索の意義について考えてみたいと思います。

1)自分と周囲の世界、および両者の関係性を知る
人は動くことによって自分のことを知り、周囲の世界のことを知り、そして両者の関係性を知ります。僕たちが、生まれてから死を迎えるまでの長期間にわたって、これらすべてのことをあらかじめ知り尽くして生まれてくることはあり得ません。必ず未知の状況に遭遇することになります。
未知の状況に対して、遂行のトーンだけで立ち向かうのには少し無理があります。危険を伴うこともあり得るでしょう。未知の状況にたいしては、やはり探索のトーンを前面に出していかなければなりません。言いかえれば、探索なくして僕たちがこの世界で適応的に動くことは、非常に困難だということになります。
特にリハビリテーションの初期の段階ではこの意義はとても大きくなります。程度の差こそあれ病気や障害によって変化した身体が、周囲の世界とどのような関係を切り結ぶことができるのか、何ができて何ができないのかは、自ら動きながら探索してみないことにはわかりません。
図2は、ヘルドとハイン(Held & Hein, 1963)よる有名な実験の様子です6)。歩けるようになったばかりの子ネコ二匹を図のような装置でつないで、一匹は自由移動でき、もう一匹は連結されたゴンドラに乗せて受動的な移動体験しかできないようにしました。どちらのネコも同じような視覚経験をしたのですが、ゴンドラに乗せられていたネコだけは実験後に適切な視知覚を獲得できませんでした。自ら動きながらの探索活動が、周囲の世界と適切な関係を築くうえで非常に重要であることを示す例だと言えます。(2013年)